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成長株のeスポーツ市場―キーマン3名が語る新規参入のススメ【オンラインイベントレポート】

9月20日に実施された無料オンラインイベント「異業種からのeスポーツ業界参入に勝機はあるのか?」にeスポーツ事業を展開する3名のキーマンが登壇。新規参入を検討する各社へ向けて、体験談とアドバイスを語ってくれました。

「eスポーツ版のオリンピック」こと「オリンピックeスポーツシリーズ」が開催された2023年。Statista社が公開したデータによると世界のeスポーツ市場は成長し続けているとのことで、2022年は14.5億ドル、2023年は17.2億ドル、2030年には67.5億ドルに達すると予測されています。

しかし新規参入を考えていても分からないことが多く、二の足を踏む企業も多いのではないでしょうか?異業種ともなればなおさらです。

そこでイードとGRITzが共同で運営するWebメディア「e-Sports Business.jp」では、9月20日にウェビナー形式の無料オンラインイベント異業種からのeスポーツ業界参入に勝機はあるのか?を開催。

人気プロゲーマーでもありプロゲーミングチーム「忍ism Gaming」のオーナーであるチョコブランカ氏、ゲーム・eスポーツ関連事業を手掛けるLunaToneの創業者・CEO ヒョン・バロ氏、本イベントの共同主催で双日の100%子会社 GRITzの代表取締役・温 哥華(おん かか)氏の3名を招き、体験談を中心としたトークを展開しました。

本稿ではその内容を、イベントの3つのトークテーマ「eスポーツ事業を始めた背景」「事業を進めるうえで苦労したこと」「新規事業を検討している人へのアドバイス」に沿ってお届けします。

▲左上より、登壇者のチョコブランカ氏(左上)、ヒョン・バロ氏(右上)、温 哥華(おん かか)氏(左下)。モデレーターを務めたのは、イードのメディア事業本部・ビジネス統轄を務める森元行(右下)

◆登壇者3名の「eスポーツ事業を始めた背景」

チョコブランカ氏はプロゲーマーとして活躍しながら、ゲーム大会運営やプロゲーミングチーム「忍ism Gaming」の運営などを手がける忍ismの取締役です。

2011年にアメリカのプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」にスカウトされたチョコブランカ氏は、日本人初の女性プロゲーマーとして活躍しました。

2011年はeスポーツの黎明期。1年ごとに契約を更新していたチョコブランカ氏は、業界そのものの行く末も分からない中で将来を不安視します。そこでゲームに携わり続けるためにも、夫であり、ともにプロゲーマーとして活動していたももち氏と2人で2015年11月に忍ismを設立しました。

事業内容は、チョコブランカ氏がゲーム大会運営を得意としていたことから大会運営を、ももち氏がゲームのレクチャーに長けていたことから後進の育成に力を入れることになります。そしてそれが後に実を結び、プロゲーミングチーム「忍ism Gaming」として活躍するようになりました。なお、2人はプロゲーマーとしても現役で活躍中です。

ヒョン・バロ氏は、総合コンサル会社で業界初のeスポーツアドバイザリーを立ち上げた後、現在は独立してeスポーツ等のインキュベーションを専門に手掛けるLunaToneを創設。そこでCEOを務めています。

もともとミシガン大学にて航空宇宙工学博士号を取得したり、韓国の大手自動車メーカーの責任研究員を務めたりするなどゲームとは異なる世界で活躍していたヒョン氏。しかし「エンジニアで終わりたくない」と日本のKPMGコンサルティングに転職し、eスポーツに着目するように。そして手始めに社内勉強会をしたところ好評で、ならば事業にしてみようと立ち上げたのが業界初のeスポーツアドバイザリーでした。

その後、経産省との取引や海外のコンサル業務を経て2023年に独立。新規で立ち上げたのが現在CEOを務めるLunaToneです。

温 哥華氏は、総合商社 双日の100%子会社 GRITzの代表取締役。eスポーツイベントの企画・運営、WEBメディア「e-Sports Business.jp」の共同運営などを手がけています。

温氏はもともと石油化学プラント輸出やファクトリーオートメーション関連の事業に携わっていましたが、2020年9月に社内で実施された新規事業創出プロジェクト「Hassojitz」に応募。88もの事業アイデアが寄せられた中でeスポーツプロジェクトメンバーと共に社長賞を受賞し、2022年1月にeスポーツ事業会社であるGRITzを設立しました。

温氏はまだeスポーツ黎明期の中国のネットカフェで初めてeスポーツと出会い、プレイヤーたちの熱気にあてられ、その印象が強く心に残っていたこともあり、eスポーツ事業会社の立上げに至ったといいます。

もとからプロゲーマーとしてeスポーツに関わっていたチョコブランカ氏を除き、ヒョン氏も温氏も異業種からの参入という立場。その意味で次の質問も興味深い回答が得られました。

◆事業を進めるうえで苦労したこととは?

温氏は会社設立前のチーム組成・事業検証の段階と、会社設立後の事業化段階の2つのフェーズで説明してくれました。

まずプロジェクトチームとして発足し10人のメンバーが集まった初期は、参加メンバーのバックグランドやeスポーツに対する認識がバラバラでした。その共通認識を形成した上で、どういった事業の可能性があるのか、その仮説を立てるのも情報不足で苦労したといいます。

3年前といえばまだまだ業界がeスポーツの可能性を探っていた時代。「eスポーツ×ビジネス」の観点で書かれた記事なども乏しく、そんな中でヒョン氏の手がけた経産省のレポートや既にeスポーツ業界で活躍している人々からも多くアドバイスをもらい、参考にしたそうです。(参考:経済産業省のレポート

会社設立に際して苦労したのは、eスポーツに関わったことがない方々へ向けての実績作りです。ゼロからイチを生み出す苦労は会社設立後も続き、限られた人的リソースで多くの仕事をこなさなければなりませんでした。

なお会社設立後の実績としては、長瀬産業の社内eスポーツイベントが非常に印象的な取組みだったそうです。社内イベントとはいえ、世界各国の長瀬産業グループ全従業員とその家族が対象となっていることから、各国でのゲーム動作確認や日・英・中の多言語同時配信の事前調整など関係者全員が「ワンチーム」となって新しい取組みの成功に向けて奔走しました。

詳しくは過去のインタビュー記事をご覧ください。

ヒョン氏が苦労したのは、企画を進める際のeスポーツへの理解度です。特にコンサルタント業務をしていた当時は、決裁者のeスポーツに対する理解度が低く、企画者とともに練り上げ、いざ提案書を作成しても決済の段階で企画が流れてしまうことが多かったそうです。

そのような場合は、まず賛同者を作るのが良いとヒョン氏は語ります。

例えばeスポーツに関する講習会を実施して理解を広めた際には、ゲーム業界の講師を呼ぶことで、それまで繋がりが薄かったゲーム業界との繋がりを強めるとともにマーケティングとしても活用しました。

他にも、新卒採用でワークショップにeスポーツの課題を盛り込むことでその人気のほどを証明したり、実際のeスポーツ大会に役員を誘ったりと、工夫を凝らして理解を得たようです。

チョコブランカ氏が大変だと感じたのは当時のゲーム業界事情でした。

会社設立当時の2015年といえば、まだまだ大会運営への許諾が曖昧だった時代です。今ほど許諾関連の取り決めが明確になっておらず、ゲームの商業利用とみなされる一切の行為について相談する窓口さえないような時代でした。

そういった厳しい制約の中で大会を開催するために、参加費無料で大会を開催せざるを得なかったといいます。またプレイヤー育成事業においても、海外大会の遠征費などもすべて忍ismが負担する形で行っており、ももち氏が獲得した賞金(私費)をつぎ込む形で運営していたそうです。

そのような状況でもゲーム大会にこだわったのは、やはり「ゲームが好きだから」。実際、プレイヤー出身の人間が運営に携わるのはメリットも多く、例えばモニターのラグはプレイヤーにとっては大きな問題ですが、それに気付けるかどうかもゲーマーとして培った感性によりますし、どこまで調整できるかも経験がないと対応できません。まさにゲーマー目線だからこその部分があり、現在ではその視点で公式大会の運営に関わることも多いそうです。

なお2023年9月26日から29日まで開催された「東京ゲームショウ2023」にて、プログラムのひとつとして開催された「TGS2023×CR CUP ストリートファイター6」では、実際にモニターのラグ調整のために一時イベントが中断する一幕がありました。

一般プレイヤーなら気にならないものでも、やはり大きな大会となれば明暗を分ける要因になりかねません。そういった場では、やはりプロゲーマーの眼が必要でしょう。

◆新規事業を検討している人へのアドバイス

これからeスポーツ関連事業への参入を考えている人に対し、まずアドバイスをしてくれたのがチョコブランカ氏です。

チョコブランカ氏は「プレイヤー寄りの目線になりますが」と断りを入れつつ、eスポーツ事業参入の最初の一歩が重要だと語りました。

ゲームに限らずエンタメを愛するファンは、サービスを提供しようとする主体が、本当にそのコンテンツを愛しているかどうか、しっかり見ているものです。もしも詳しくない場合は、例えばヒョン氏のように精通した人間とともに参入するなどしないと、最初の一歩の時点で見放されてしまう可能性が高いでしょう。

ヒョン氏もチョコブランカ氏に同調する形で、「トップダウンで実施しようとすると失敗するケースを多く見てきました」と話します。

それは大きな会社ほど多く、やはり熱意をもってやれる現場の担当者が先頭に立てるかどうかで結果が大きく変わるようです。

温氏は「やって良かったこと」として、まずはリーンスタートアップ(最低限のコストで事業をスタートし、無駄なく着実に事業を成長させる考え方)で事業化を目指したことを挙げます。

さらにもうひとつ、eスポーツの可能性を知ることも大切だと語ります。現在、主なeスポーツファンの構成は男性が約8割、若者が約8割という特徴があるとしながらも、一方で老若男女・国籍・障害を問わず楽しめることもeスポーツの特徴。そんなeスポーツとそれぞれの業界の強みと掛け合せることで、異業種ならではの「eスポーツ×何か」の新たな可能性・価値創造にも繋がるのではないかと語りました。

事業をスタートする時期によってさまざまな環境の変化があったeスポーツ業界。まさにそれは成長分野ならではの特徴であり、先人たちの苦労があったうえで舗装が進められていると言えるでしょう。

今回のイベントは少なからず、新規参入を考えているみなさんの助けになったのではないでしょうか。

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