eスポーツは「半導体を身近な体験にしてくれる存在」―SEMICON Japanの「半導体×eスポーツ」イベントに込められた想いとは【インタビュー】
昨年はSHAKAさんやMOTHER3さん、OooDaさんらが登壇し、大成功に終わった本イベント。主催のSEMIジャパンに、開催の経緯やイベントへ込める想いを聞きました。
※本記事は、「SEMICON Japan 2023」開催前の2023年12月11日に掲載したものです。
2023年12月13日から15日の3日間、東京ビッグサイトにて半導体に関連したあらゆる情報が集まる総合展示会「SEMICON Japan 2023」が開催されます。
そして、この「SEMICON Japan」では2022年からeスポーツ界で活躍するインフルエンサーを招いての「eスポーツ×半導体」と銘打ったセッションがスタートしており、今年も12月14日に「No 半導体、No GAME」を掲げるセッションが予定されています。
近年勢いを増すゲーム・eスポーツと、それに欠かせない存在である半導体。近いようでこれまで目立った接点のなかったふたつの業界をミックスしたイベントはどのような経緯で生まれ、どんな想いが込められているのか。
SEMICON Japanの主催であり、本イベントも手がけるSEMIジャパンより、マーケティング部ワークフォース・デベロップメント&ビジネスデベロップメントリーダーの下村泰輔氏にお話を伺いました。
──最初にSEMIジャパンについて教えてください。
下村泰輔氏(以下、下村) 我々SEMIはアメリカに本部を持つ組織で、元々は半導体の製造に関する国際標準を作る役割からスタートしています。現在はアメリカやヨーロッパなどいろいろな地域で「SEMICON」という国際展示会を開催しており、昨年の「SEMICON Japan 2022」には5万人を超える来場者にお越しいただきました。
立ち位置としては「業界団体」であり、半導体業界に対して力になれることをやっていきましょうという組織なのですが、その業界で現在大きな課題となっているのが人材開発です。半導体の市場は伸びていますし今後もさらなる伸張が予測されていますが、人材不足は日本以外でもトッププライオリティーの課題です。おそらく学生の方からすると半導体やその材料・装置の業界はハードルが高いイメージを抱かれている方も多いかと思いますので、分かりやすくウェルカムな形で情報を発信し、興味を持ってもらいたいと考えています。
──半導体業界において、日本はどういった立ち位置なのでしょうか。
下村 日本はデバイスそのものに関してはそこまでシェアは高くありませんが、製造装置の分野では世界全体の3割、材料の分野では全体の5割程度と高いシェアを誇っています。熊本にTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)の工場ができたり、新会社のRapidusが設立されたりと業界は活気づいており、日本は半導体業界でも重要な位置を占めていると言えます。
しかし、他の国に比べて理系の学生の“なり手”が少ないという課題があります。せっかくチャンスにあふれている業界なのに人材が居ないことが足かせになってしまう可能性があり、人を集めようとしている、というのが活動の背景でもあります。
──そうした活動の中で半導体とゲームやeスポーツが結びついたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
下村 きっかけは「学生の皆さんにとって身近な体験で半導体が関わっているものは何か」を考えたことですね。自動車や家電も当てはまりますが、中でもゲームはすごく身近で、GPUの進化がグラフィックの性能に直結しています。「半導体が進化するとどうなるのか」は実感しづらいものですが、PS3がPS5になっていくようにわかりやすい変化を体験できる題材で、日本のメーカーが強くて幼少期から体験している人も多いこともメリットだと考えました。
──ゲームに詳しい方の知見を借りるなどしたのでしょうか。
下村 実は私の前職がゲーム業界に学生を送り出す立場だったので、半導体との繋がりを意識してこそいませんでしたが、学生とゲームの関係性や親和性は分かっているつもりでした。あと、シンプルにゲーム好きでもありますね(笑)。
──そこから昨年のSEMICON Japanで実施されたeスポーツイベントの企画に至ったという流れになるのですね。
下村 とある半導体関連の企業様が社内でeスポーツイベントをされて、それが非常に活況だったという情報も後押しになり、昨年は構想から3~4ヶ月で実現しました。
──改めて昨年のイベント内容について振り返っていただけますか。
下村 ストリーマーとして活躍されているSHAKAさんとMOTHER3さん、そしてキャスターのOooDaさんをお招きして、古いスペックのPCと新しいスペックのPCに分かれたハンデ戦のような形で対戦していただきました。他にもIntelの方にお越しいただいて、PCを分解して技術的なお話をいただきました。
また、イベントの後半にはファンミーティングを行いました。このパートでは半導体は推さずに、ファンと出演者の皆さんとの交流を大切にした内容でした。こちらは半導体とは直接関係はありませんが、eスポーツではプレイヤーの方とファンの方の距離が近く親密なコミュニティがしっかり形成されているんだなと感じましたね。
──初めてのeスポーツイベントを実施するあたり社内及び来場者の反応はいかがでしたか。
下村 我々にとって大きなチャレンジだったと思います。eスポーツイベントにおける企画、ゲーム選定からキャスティングなど含め我々にとっては未知の分野でした。その中で今回ご協力頂いたGRITzさんはじめ様々な方からアドバイス頂きながら企画・イベント実施に至ったのですが、企画の中で特に重視したのは「あまり初心者向けの内容にしすぎないこと」でした。
来場されている方はゲームやeスポーツのファンですから、ゲーミングデバイスの中に半導体が存在していることはある程度分かっているはずで、企画内容もデバイスの中の半導体がゲームに対してどのような役割を果たしているのかまで踏み込んだ内容にした方が来場者にとって良い内容になるのではと考えました。
実際には10代から30代くらいの方に多く来場いただいて、男性だけでなく女性の方も結構いらっしゃったという印象です。ファンの方もやはり半導体の存在自体は知っていて、それがゲームでどのように作用しているのかを分かりやすく伝えられたかなと思います。
──社外からはどのような反響がありましたか?
下村 会社とは関係のない知人から「本当にSHAKAさんが来たの?」と驚かれました(笑)。SHAKAさんにとっても半導体の製造装置や材料はまったく分からない世界だったと思います。しかし、後日ご自身の配信で「こんな面白いイベントに出た」とお話しされていたのを見て、良い機会になったなと感じました。
(「過去一面白かったイベントに参加した話をする釈迦」SHAKAさんのYouTubeチャンネルより)
──休憩時間にSEMICON Japanの会場内を歩いてみて発見があったというお話しされていましたね。
下村 SHAKAさんは会場内で見かけたウェハを切る機械を「ピザを切る機械みたい」と例えていて、確かに近いなと(笑)。半導体材料や製造装置はなかなか目にする機会がなく馴染は薄いですが、そこで止まらずに面白さを分かりやすく伝えていただけたことも良い反響に繋がったでのはと思います。それも、休憩時間に自ら行動していただいたのが嬉しかったですね。
──イベント内でも分かりやすく伝えるための工夫やチャレンジがあったのでしょうか。
下村 2点、工夫したところがありました。ひとつは「概念ではなく実際のものとして出す」というものです。スペックが低いPCだと動作が遅いという感覚はなんとなくあるかもしれませんが、それを実際に異なるスペックのPCから映像を投影して見せることでより明確に表現しました。もうひとつは海外の方に向けた言語対応で、実際に会場にはお越しいただけない方でもYouTubeから英語と中国語でご覧いただけるようにしました。
──セミナーやプレゼンが行われている会場内でいきなりゲーム画面が映し出されていて、立ち止まって「何をやっているんだろう」と注目されている方も多かった印象です。
下村 若い方に向けてと思っての取り組みでしたが、年配の方にも来ていただいて、興味を持たれているんだなという発見もありました。
──初めての取り組みで難しさや苦労もあったのではないでしょうか。
下村 やはり「ターゲットをどこに置いて、どこまで突っ込んだ内容にするか」が今となっては一番難しかったです。一口にeスポーツといっても、レースゲームも格闘ゲームもFPSもeスポーツです。最初はeスポーツ大会のようなイベントをやろうともしていましたが、それだと半導体と関係なくなってしまいますから、半導体をいかに入れ込むか悩みました。生みの苦しみでしたね。今年も苦しみながら、この時期になってしまいました(笑)。
──その苦労が実り、参加者の皆さんにとっては楽しくて意義のあるイベントになったのではないかと感じます。
下村 参加者からの声では概ね好評をいただいたと思っています。ゲストの皆さんが登壇からファンミーティングまでフレンドリーだったことへの評価の声も多く、改めて感謝しております。「半導体 × eスポーツ」という切り口についても非常に高い評価していただき、次年度を求める声も数多く頂きました。中には「もっと体験的な、参加型のステージにして欲しい」という声もあり、取り入れていきたいと考えています。
──イベントを実施してみて、eスポーツというジャンルの可能性や広がりをどう感じられましたか。
下村 改めて、ソフトウェアだけではなくハードウェアも含めたすごく大きな盛り上がりなんだなと。想像よりも幅広い層に支持されていることも含めて、eスポーツを通じた発信には大いに可能性を感じています。
前年度のイベントレポートはこちら
──ここからは今年のSEMICON Japan 2023についても伺っていきたいと思います。
下村 イベント全体では昨年より規模を拡大し、東京ビッグサイトの東展示棟をすべて使用しての実施となります。出展は800社以上で、6万人規模の来場者を想定しています。内容は専門的なセミナーから、半導体から派生した展示まで、例えば宇宙に関するものもありますね。今年は特にSNS映えするようなスポットも用意して、若い方に興味を持っていただける座組にしたいと思っています。
キーワードとなるのは「体験」です。今回は会場内にSEMICON STADIUMというエリアを設けて、そこではロボットが操作できたり空飛ぶ車が展示してあったりと、未来を体験できる展示が集まっています。ゲームとはまた違った切り口ですが、こちらも半導体にそこまで詳しくない方でも楽しんでいただけるのではないかなと。
──そして2日目となる12月14日には「eスポーツ×半導体」のセッションが予定されています。
下村 今年は司会にOooDaさん、ゲストに伊織もえさんをお迎えして、グラフィックボードの取り換えのデモやファンの方との対戦会、そしてトークセッションなどを予定しています。
──こちらのセッションには気軽に参加できるのでしょうか。
下村 イベントへの来場登録と、各セッションの座席を予約するセミナー登録をしていただければ参加料はかかりません。もう埋まってきておりますので、参加されたいセッションがある方はお早めにご登録ください。
学生さんが自身の研究発表をされるアカデミアコーナーや業界研究イベントの「未来COLLEGE」などのエリアもあり、スタンプラリーなどのキャンペーンもお楽しみいただけたらと思います。
下村 なぜこのイベントをやろうと思ったのかを一言で表現するなら「広げたい」からなんです。この業界は活躍できるエリアが広がっていて、情報系の方や文系の方などの元々半導体を研究していなかった方も含め、今よりもっと多くの方が活躍できる素地があると思っています。今後もAIを導入したり海外への展開を進めたりすれば、活躍の場はどんどん増えていくでしょう。
それをふまえ、「半導体の分野は皆さんと関係があるんですよ」と伝えに行きたいんです。その最初の切り口としてeスポーツを選びました。「オリンピックeスポーツシリーズ」が開催されるほどの盛り上がりがあるこの分野は、Z世代の方へ半導体の魅力を伝えるには非常によい題材だと思っています。これが皆さんに伝われば幸いです。
半導体メーカーからその材料や製造用装置を手がける会社、そして関連するサービス・ソフトウェアなど、半導体に関するあらゆるコンテンツが集まる総合展示会「SEMICON Japan 2023」は、東京ビッグサイトで12月13日から15日にかけて開催予定。
入場には公式サイトからの「来場登録」、そして各セミナーへの参加には「セミナー登録」が必要となります。詳しくは「SEMICON Japan 2023」公式サイトをご覧ください。
イベント当日のようすはこちらの記事でレポートしています
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